世界遺産に登録されていたり、日本百名城、日本続百名城にリストアップされていると訪れる人も多く、資料館が併設されていたりガイドさんがいてくれたりして大変助かるのですが、国指定史跡になっていてもまだ資料にとぼしく、訪問者を優しく受け入れてくれないグスクもあります。それでも「見たい」と思わせる魅力的なグスクをいくつかご紹介します。まったく個人的な好みによる選択であることをご了承願います。
― 玉城(たまぐすく)グスク ー
岩をくり抜いた穴を、そのまま正門にしたグスクで、その発想、姿形が奇抜でかつ美しい。また琉球の創造神話の主アマミキヨが築城したと伝わるなど、神話世界が現実世界に残した空間のよう。アマミキヨが降誕したと伝わる久高島も沖合にその姿を見せている。グスク内の御嶽は今も訪れる人が多い拝所。
主郭は標高180メートルの丘陵の一段と高い個所に設けられ、高さがおよそ3メートルの石垣が周囲をめぐっています。郭自体は狭いのですが石垣の状態は良好です。しかし足を踏み入れられるのはこの郭だけで、隣接する二の郭(160平方m)と三の郭(3,800平方m)へのアクセスは見当たりませんでした。また二、三の郭の石垣は戦後米軍基地建設のために持ち出されたとのことで、残存状態は良くないと伝わる。
岩の抜け穴の正門までは駐車場から約30メートルの高さを登らなければなりませんが、現在は木製の階段が地表面から正門まで設けられてあって大変便利になりました。15年前に一度来たことがありますが、その時登った30メートルはかなりきつかった。
ー 糸数(いとかず)グスク ー
中城グスクの石垣は風に揺れるカーテンのたおやかな動きを連想させますが、糸数グスクの重厚な石積みは重々しく力強い動きを思い起こす。
これだけ躍動するパワーを感じさせるグスクの石垣は、私のわずかな経験で言うのも恐縮ですが、記憶にありません。傾斜地をうねるように登る石垣は松山城や彦根城「登り石垣」に似ていますが、糸数グスクの動きははるかに激しい。
面積は約21,000平方mと大きいのに、単郭。 |
ー 糸満具志川(いとまん ぐしかわ)グスク ー
沖縄はどこにいても海が近いので、少しでも高い地盤に立つと当然海が見えます。しかし糸満具志川グスクは海岸線に建っているので背景に波まで写ります。海の青と波の白が琉球石灰岩の淡い白色に映える。
崖の上に石を積むのはむずかしそうですが・・・ |
面積約1,610平方メートルと規模は小さめ。築城年代や築城主など、詳細はいっさい不明です。ただ久米島に同じ地名を冠したグスクがあり「(久米島の)具志川グスクの按司が戦に敗れて本島に逃れ、喜屋武(きやん)に故郷と同じ名前のグスクを築いた」との言い伝えが残っているとのことです。
ー 知念(ちねん)グスク ー
旧街道に面して建つ知念グスク 左側に正門 |
沖縄教育委員会が現地に建てた案内板に次のように書かれています;
『この城は、二つの部分からなっています。一つは東南部の古城で高所に1~2メートルの野面積みの石垣で囲まれ、内部はうっそうとした森となっています。ここは「おもろさうし」に「ちゑねんもりぐすく」と謡われた霊場です。(略)知念城は古くは代々の知念按司の居城でもあったと思われますが、それがたんなる城郭ではなく、「あまみきょ」の伝説と尚真王の権威とが結びついたいわば宗教的城という意味で重要です。』
グスク内側から見た正門(奥)と裏門(手前) 正門右の森がクー(古)グスク 現在中には入れず、様子は一切うかがい知れない |
あまり広くないミー(新)グスク内に ー |
グスクの横を旧道が通っていて、同じ道に面して家臣の家らしい遺構もあって往時の村を想像してしまいました。クーグスク(古)に入れなかったのは心残りですが、次に来るときには整備されていることを期待したいです。
― 島添大里(しましーおおさと)グスク ー
沖縄が北山、中山、南山の3地域に分かれて覇を競っていたグスク時代(12世紀~15世紀)に南山の王城であったところ。3万平方メートルを超える広大な敷地は南部地域では最大の規模。しかし石積みは多くが崩壊しているようで、保存状態は良くありません。
琉球を統一した尚巴志が初めて滅ぼした城とされ、これを契機に三山統一を遂げることになった沖縄の歴史上重要なグスクです。
グスク跡から中城湾を望む |
主郭跡に建つ展望台 |
今は整備された公園になっている |
ー 安慶名(あげな)グスク ー
写真はここに掲載したアングルしか撮れなかった。城跡をグルグル回って見たもののグスク内に入るルートが見つけられなかったのです。ひょっとして閉鎖されているのかもしれません。内部の木の繫茂状況を考えると歩けるように整備されていないかもしれない。現地へ行かれる方は充分下調べをしてお出かけください。
面積約8,000平方メートル。
ー 沖縄を去るにあたって ー
さて3日と言う短い時間でしたが、グスクの多様性にタップリ浸ることができました。琉球石灰岩が醸し出す柔軟な包容力と海の青がどのグスクもきれいにマッチして見飽きることがありませんでした。現在米軍の管理下にあったりして中に入ることが出来ないグスクもあるようで、今後見られるようになることも考えられます。それに伴って新しい発見があることを期待したいと思います。
ここで使用させていただいた各グスクの説明や数字は、各城跡に掲示してある案内や説明、関連する地方自治体のHP、さらにこれまで出版されたグスクに関する書籍を参考にさせていただきました。写真はすべて倉岳 一が撮影したものです。
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